ええ~、毎度おなじみチリ紙交換です…
○月○日
仕事にも大分なれました。新聞を出してくれるのにも、色々なパターンがあります。
1、トラックの所まで持ってきてくれてしかも紐でしばっている。
2、部屋まで、取りに行く、紐で縛ってある。綺麗につみあげている、
部屋に乱雑に散らかっている。
3、玄関の脇に積んでいる、(アパートに多い)…
いずれの場合も、お礼を言って、紐で縛ってトラックに積み込みます。そして、意外と沢山の人と接触します。だから、 身なりは何時も小綺麗に、ジーンズの上下に中のシャツは、オレンジ、イエロー、ワインレッド、と洒落たちり紙交換屋でした。体重は56キロ、ウエスト75センチ…。
今のカポネさんとは大違い。
そんなある日、何時ものように、呼ぶ声が聞こえます。
"ちり紙交換屋さ~~ん" 若い女性です、車をちかづけてみると、マンションの2階から顔をだして"新聞とりにきて~~" と、イロっぽい声で言いました。水商売風でした。
僕は、返事をしてマンションの入り口にすこし緊張しながら向かいました……。
「こんにちは!」
"あら、若いわねー…"、それには答えず、
「新聞どこですか?」と言いながら、観察をしてみると,さっき、車の中からみたときは、若いと思ったのですが、近くで見ると年のころ28, 9歳のそれなりの、熟成された大人の女性(しかも、夜の……)でした。
何故なら、彼女のまとっている衣装は、スケスケの"ネグリジェ"、ほとんど、透けて見えています。
目のやり場に困っていると、"そこにあるから、持って行ってくれる?" と甘い声で、まるで夜のお仕事をしている時のような雰囲気でいいました。
彼女の、指差すほうを見ると、ほんの少し、もうしわけなさそうに、新聞が積まれています。
コレハナンナンダ! カラカワレテイルゾ! と内心悟りました。キロ数にして5, 6キロ(この頃には、見ただけで何キロでいくらになるか把握していました)しかありません。普通は最低でも2,30キロくらいたまらないと、交換にはだしません。
一掴みほどの束を、紐で縛っていると、
"お茶でも飲まない?" またもや、甘い声で言いました…。
"お茶でも飲まない?" …当時はコンビニもなく、水、食料など手軽に買う事も出来ません。少し喉もかわいていたので、それに、新聞もそれ以前にかなり集まっていたこともあって、時間にもゆとりがあり 「はい、頂きます」というと
"礼儀正しいのね…"と言い、白い歯を見せながら、少し寂しそうに微笑みました。
"私ね、18の時、八戸から出てきたの…" とコーヒーを飲む手を休めて話し始めました。
"音大にはいりピアノの先生になりたかった、大学の講義もソコソコ真面目にやり学生生活も、楽しかったわ。友達も沢山いたし本当に楽しかった…。でも2年の終わり頃知り合った男と付き合い始めてからおかしくなり始めたの…"
と言い コーヒーを一口飲みました。
「何処で知り合ったのですか?」と僕はコーヒーをご馳走になっている手前 お返しのつもりで聞いてみました。
よく見ると成熟した大人の女性の魅力をたたえた綺麗な人でした…。
「何処で知り合ったのですか?」
"ヨーロッパ……ナポリよ"
「え! が、が、外人ですか?」
"いいえ、違うわ、日本人よ…。ツアーで来てたの。 同じツアーだったのよ……"
僕は意外な展開に少し興味を惹かれて、本腰を入れて話を聴く気になっていました。
それからの彼女の話を かいつまんで纏めると、こういうことでした。
初めての外国旅行で気持ちが高ぶっていた彼女は 同じ日本人だと言う安心感と気安さで、すぐに打解けてその日のうちにホテルで身を任せて!!しまったそうです。
その次の日からのツアーは本当に楽しいものだったそうです。
そのツアーはフランス、イタリア、イギリスと3カ国をめぐる7泊8日の旅でした。
彼女の話しぶりからは、本当にそのツアーが楽しかったという様子が手に取るように伺われました。
そこまで話すと彼女は
"もう1杯コーヒーいかが?" と言いました。
僕はもう本腰を入れて話を聴く気になっていたので
「ええ、いただきます」と、小さくうなずきました。
台所へ立ち去った彼女の後には 甘い香水の匂いがほんのり漂っていました……。
(続く)