ええ~、毎度おなじみチリ紙交換です…
「おぉ宮崎、上がって来い!」
車を道路の端に止めて2階の部屋まで上がっていきましたが 何時も通いなれてるコースなのですが この時はレッスンではないので、何か非常に得をしたような申し訳ないような複雑な気持ちでした。
レッスンの時は、自分の権利の時間ですから、堂々と当たり前のように訪問しているのですが、この時ばかりは、無銭飲食でもしているような気持ちだったのを今でも鮮明に思い返すことが出来ます。
35年も前のことなのに……。
部屋に上がっていくと、先生は 練習の最中だったみたいで 奥の部屋の隅にギターが何気に置かれていました。
「お前、チリ紙交換やってるのか」
'ハイ'
「いつからだ」
'半年くらい前からです'
「そうか じゃあ もうだいぶ慣れたか?」
'ハイ'
「若い時の経験は一つも無駄にはならないぞ。チリ紙交換をやってることも、いいジャズギタリストになるためには必要かもしれないな」と、優しい言葉を掛けてくれました。
レッスンの時に会っていた先生の印象とは、随分違うので 少し驚きました。
'先生、トイレットペーパーはお使いになりますか?'
「うん、使うよ」
'じゃあ車の中にあるトイレットペーパー、持ってきます'
と言って、駆け足で車に戻り、あるだけ全部のトイレットペーパーを先生に上げると、先生は
「新聞ないぞ…」
と少し申し訳なさそうに言いました。
僕は
'いいんです。気持ちです。先生使ってください'
先生は「そうか、悪いな」と言って にこっと微笑みました。
'じゃあ僕 仕事に戻ります'
「おう、頑張れよ」
'ハイ、失礼します'
「おう! じゃ、来週の月曜日な」
四谷から 会社のある荻窪まで帰る道すがら とても清清しい爽やかな気分でした。
まさに青春を感じた、ひと時でした。
<△月△日の項 の項 終わり>
(続く)