師匠・高柳 昌行さんとの思い出

 

 

そう言って 僕は 喫茶店のアルバイトから 1ヶ月の バンド生活、 そして 今に至る

チリ紙交換までの 経過を かいつまんで 高柳さんに 話しました。

 

先生は 僕の その話を、 時々 笑いながら そして 「うんうん」 と相槌を打ちながら 

じいっと 聞いていてくれました。

 

僕の話が 終わると 先生が 静かに 切り出しました。

「みやざき、いつも言っているように 大きな木というものは 表面に出ている 枝や幹の 何倍もの

大きさの 根を 地下に 張り巡らせているんだ。

お前は 今 一生懸命に 根を 伸ばそうとしている ところなんだ。

ミヤザキ! 世阿弥 観阿弥 って 知っているか?」

 

僕は 『ゼリーや 寒天なら 知っているが・・・そんな名前 聞いたことも無いなあ・・・』 

と 密かに 心の中で 思い 表面上は 「いいえ、知りません!」

と まともな 答えを しました。

 

すると先生は 

「世阿弥観阿弥って言うのは 日本の最古の 芸能・芸術書である ‘花伝書’ を

後世に 残した 人達だよ。

花伝書には あらゆる 芸能芸術の極意を したためてあるんだ。

其の中でも 一番大切な ところは、 

歳 早く 開いた花は 決して 大輪には なりえず

開いたとしても 小さい花のままで 終わる事が多い。 それに引き換え 

壮年期から 開き始めた 花 というのは 大輪に 育ち、 しかも すぐには 散らず 

長い間 咲きつづける。」

 

と説明してくれました。

 

僕は 偉いお坊さんから ありがたいお説教でも 聞いたような 気持ちになって

世阿弥観阿弥花伝書、世阿弥観阿弥花伝書・・と 心の中で 繰り返しました。

 

「だから あせらないで レッスンを きちんと やりなさい。」

と、最後に 締めくくって くれました。

 

僕は チリ紙交換の 仕事中であるということも忘れて ずーっと その場に 居たかったのですが

先生の お邪魔をしては いけないと思い 「ありがとうございました!」と 言って

持っていた 交換用の チリ紙、トイレットペーパー をすべて 先生にあげました。

 

高柳さんは 「お、こんなに もらって いいのかぁ?」

 

僕は「 ええ、いいんです。 これから 会社に帰って また 仕入れますから。使って下さい」

 

先生は 「 お、サンキュー」 と軽く 言いました。

 

僕は 「失礼します」 と言って 先生の部屋を 出て 

おんぼろトラックに乗り 荻窪の会社まで 戻りました・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  

 

続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

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